ただ生きる
谷川俊太郎

立てなくなってはじめて学ぶ
立つことの複雑さ
立つことの不思議
重力のむごさ優しさ
支えられてはじめて気づく
一歩の重み 
一歩の喜び支えてくれる手のぬくみ
独りではないと知る安らぎ
ただ立っていること
ふるさとの星の上にただ歩くこと 
陽をあびてただ生きること 
今日を
ひとつのいのちであること
人とともに 
鳥やけものとともに
草木とともに 
星々とともに
息深く 
息長く
ただいのちであることの
そのありがたさに 
へりくだる